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世界で一番古いミュージカルを観た

18世紀英国でジョン・ゲイによって書かれた「ベガーズ・オペラ」がジョン・ケアード(「レ・ミゼラブル」の演出家)の手によって日本で上演。 
2006年1月に36回の公演を終えた。
この「ベガーズ・オペラ」は世界で一番古いミュージカルと呼ばれている。
18世紀に実在した人々をモデルにした社会風刺もたっぷりに、当時流行っていたオペラ等も揶揄しながら作られた作品。

日生劇場に特設の舞台を設置。
役者が観客席を歩きまわる、一緒に踊る、話かける、など観客に一体感を誘う演出。
筋はシンプルであるが劇中劇で進行していく。 
演じる方はまず18世紀の英国のベガー、作品の中の劇と多重構造を演じていくという複雑さ。
そして3時間40分という公演時間の長さ。 
好みがはっきり別れる作品となったようだ。 

ご贔屓の役者さん目当てで通うリピーターとは逆に途中で帰る観客もいたようである。
かくいう私は何度か観に行った口だ。
面白いことに入手したチケットを見ると下手から上手まで順繰りに舞台を見渡すような席となった。 
当然ながら舞台との距離で体感も違ってはくる。 
見えるものが違うのだ。
一応設定では18世紀に観客が招かれているわけだが、私の体感からは18世紀のベガー一座が21世紀東京にワープしてきた、という感じだ。 

舞台の裾に設置された特設席では真横から役者さんの足元から見上げる形になって、ほとんど舞台に取り込まれた状態になった。 頭が空っぽになって脳内麻薬がでそうな位置だ。
事実時折口をあんぐりと開けて観ていたかもしれない。
また別の日は正面のかなり前方にて観劇。
この位置はまだ若干理性が働いて、目の前を歩く役者さんを見ながら嬉しいのか嬉しくないのか、なんとも中途半端な感覚で座っている自分がいたのだ。 誰もいち観客のことなど見てはいないのだから嬉しいならもっと嬉しそうに居ればいいものを、と頭は考えるが体は結構当惑していた。 

と急激に自分の中である記憶が蘇った。
小学校講堂にて行なわれる子供向けの劇団公演の時の記憶だった。
作品の内容は覚えていない。 思い出したのは放課後の校庭の隅で後片付をしている劇団員のお兄さんに駆け寄り物珍しそうに話しかける子供たちの姿だ。
私はそのひとりではなかった。  
その記憶を呼び起こした塊はすでに痛みを伴うものではなかったが、もうその頃から私はそれを抱えた体であったのだ。 
記憶は一瞬で、私は再び目の前で繰り広げられている虚構の世界へと飲み込まれた。

演出家のジョン・ケアードはPlayには演じるという意味と同時に遊ぶという意味があることをこの作品のインタビューで語っている。 そして主演男優は彼のことを「ジョン自身が子供のような人」だという。
素朴で遊び心がたくさん盛り込まれた、大人のプレイグラウンド。
下手な役者が演じれば幼稚なだけだが、これまた上手い役者がずらりと並んで幼心を刺激する魅力。 舞台美術も豪華。 
限りある人生、いつかは目の前に繰り広げられている現実もあっという間に夢の彼方になっていく。 リピーターの年齢層が高かめなのもなんとなくわかるような気がした。
原作、演出家、役者の魅力のハーモニーが嫌味なく写しだされた舞台となっていた。
今回の演出は原作が書かれた18世紀にはまだ考えられなかったような感性かもしれない。 主題のままであったらなら救われない内容だったかもしれない。 しかし主題は変わらずとも表現する人間は数世紀を経て少しは進化しているのだろう。
文字で書かれていない「時」の空気が伝える21世紀のベガーズ・オペラ。
ジョン・ケアードという人は人生を愛するということをよく知っている人なのかもしれない。

 

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