« 東宝エリザベート2005(2) | トップページ | CD「CATS」劇団四季オリジナル・キャスト版 »

2005-11-02

能楽劇「夜叉ケ池」

yashagaP 梅田芸術劇場オープン記念シリーズのひとつ。
東京はBunkamura・オーチャードホールにて1公演のみ。
能楽劇と副題がついているコラボレーション作品。(以下敬称略)
能の梅若六郎の演出の元に狂言から野村萬斎、元バレエダンサーの小林十市、元宝塚より壇れい、新派より英太郎、ほか落語、能、狂言界の人々が織り成す泉鏡花の世界。

こんな世界を待っていました、という感じ。 

シンプルで澄んでいてそして凛とした美しさのある世界。

それは能や狂言ではちょっと遠すぎるが、歌舞伎ではにぎやかでローカル過ぎる。 

もう少し”今”という時に近くて、他にも伝えたい日本の........。

私自身がかつて花を生けていた時に知っていた感覚に非常に近い。
今年は少しだけれどあれこれ舞台を見たが、やっとこの感覚に戻ってきた、という感慨あり。 ”今”というのは別に原作にある時代背景ではなく、あくまで私自身の中に流れる時の感覚。

舞台美術が作る間の美しさ。

光の放つ静けさ。

物語の気高さ、演じる人々のもつ姿の美しさ。

さぁ、ここから私たちは何処へいこうか。

伝統に埋もれることなく、溺れることなく、先に先にと進んでいく人たち。

ひとつの枠にだけにとどまらず歩いていく人たち。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

能や狂言に精通していないのでその部分では何も書く事ができないのが残念。
原作の「夜叉ケ池」をかつて読んだ事があるのも忘れていたが、以前玉三郎主演の映画があってその印象がかなり強かった。
ありがたや、そのお陰で物語の筋は覚えていた。
いったいあの異界をどのように同じ舞台で表すのか。まったく予想がつかない。
夜叉ケ池の主、白雪姫をはじめその眷属たちを能・狂言の世界の人々が演じる。
そして侍女の萬年姥は新劇の女形、英太郎が演じた。

この白雪姫の侍女が能の世界とこちらを繋いでくれる通訳のような役割も果たしてくれることで能の独特の語り口が理解できなくても筋がきちんとわかる仕組みになっていた。 
またこの新劇の長老女形・英太郎を知る事ができたのを幸いと思う。
役まわりも良いのだが演じる彼の声の張り、その自然でありながらも独特の存在感。歌舞伎の女形ではなく新派の女形をここに配した演出のセンスもみごと。
そうしてこの姥は女優では絶対に生臭くなってしまってできない役に違いない。
眷属たちも愉快、愉快。これは視覚的にも楽しめる世界。
白雪姫の存在はもちろん別格。 能の世界の白雪姫はこういう感じになるのか、と初心者の私は感心するばかり。
場の作り方がやはり独特で上手い。重ねてそれを見せる美術も上手なのだ。物語の舞台が人間の世界に戻ったあとにちらりと池の中の白雪姫が被るシーンがあったが、舞台の上手に潜むかのようなその姿。まさに別の世界、別の空間、それがちゃんと全体と共存しているのだ。 

物語の始まりと進行もまずは野村萬斎、後に小林十市によって物語を読み上げられることでくくられていく。
ここで無声映画の弁士の姿を思い出した。考えましたね、という感じ。
障子ひとつで仕切られた家の奥と外。透けて見える奥に篭る晃の影。蛍の光る木々。蝉の音を耳にして、背景の黒が割れて開くとそこには夕焼け空が広がっていて、もう山の中なのだ。
旅人として訪れる旧友・學圓、小林十市の姿がとてもいい。 肩の力の抜け具合といい、しなやかでいて、ちょっと下町っぽくて、いかにも学問をしている昔風な感じの人なのだ。 前衛的な西洋の踊りの世界にいた人とは思えないくらいに”和”の空気。 踊っていた頃を知らないのが残念。 

残念といえばオープニングのテーマ曲を奏で、歌うふたりの男性。 
まず衣装。もっとお洒落なものを着て欲しかった。どこかむさくるしく、そしてマイクのせいなのか音響の意図なのか、歌詞も音もこもっていて全然わからない。 かえって汚い感じで舞台にもミスマッチ。 時代の組み合わせなども考慮してのことかもしれないが、なんともいただけなかった。
もうひとつの残念は唯一の女性出演者である百合役の壇れい。 
なぜこの人が百合なのか、というのがよくわからなった。ソロがひとつあり詩はずっしり響いてきたが、彼女の歌声もいまひとつ。 歌いだした時に客席がいっせいに冷めていくのが感じられた。 ふたりの男たちが素敵だったので損な役回りだったのかもしれないけれど、もう少し艶があるか、透明感があるか、とにかく何かいまひとつの感じ。 百合と白雪姫は対としても見てしまうとどうもしっくりしかねる。

そして、野村萬斎演じる晃。 やっぱり彼は彼でした。 One and Onlyネ。 

たぶんまだまだ作品としてもいろいろと改良の余地はあるのだろうけれど、私としては満足でした。 また観たい。 また白雪姫に逢いたい。
「大般若」をもっと規模を大きくしてやってみたいという意図があったそうだけれど、本当にそういう感じ。
そうして、さりげないセットや効果が日本人なら誰もが持っている血の中の記号にマッチするような仕組みが嬉しい。 
この作品でも階段を使ったり、透けて見える視覚効果を使ったりしているのだけれど、今年見た似たような効果を配したどの舞台よりも一番美しかった。 それぞれ分野が違うとはいえ同じ日本での作品なのにこうも違うものか、と。
最後には観る側の好みだろうと思うけれど、この舞台空間の「間」の美しさが今まで他では見る事がなかったのがある意味残念かもしれない。

ちなみに美術は朝倉摂。 ポスターは横尾忠則。
とにかくただものではない人たちの集結した作品でした。

【おまけ】夜叉が池は岐阜県と福井県の境に位置する実在の場所で、登山者にも人気だそうです。
福井側からの詳細はこちらから見れます。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

【原作】泉鏡花 
【構成・演出・出演】梅若六郎 【芝居演出】中村一徳 
【出演】野村萬斎/小林十市/檀れい/茂山宗彦/茂山逸平/茂山童司/梅若慎太朗/桂小米朝/桂南光/英太郎/他

【演目】一部:半能「石橋(しゃっきょう)」 /二部:能楽劇「夜叉ヶ池(やしゃがいけ)」

夜叉ヶ池・天守物語
岩波書店
このアイテムの詳細を見る

|

« 東宝エリザベート2005(2) | トップページ | CD「CATS」劇団四季オリジナル・キャスト版 »

舞台」カテゴリの記事

伝統芸能・歌舞伎」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 能楽劇「夜叉ケ池」:

» 能楽劇「夜叉ヶ池」 [Je pense, donc je suis.―JOLLYの徒然日記―]
ずーっと楽しみにしていた小林十市さんの最新舞台、能楽劇『夜叉ヶ池』を見てまいりました。(※過去の浮かれたブログは [続きを読む]

受信: 2005-11-02 16:54

» 能楽劇『夜叉ヶ池』 [「能楽の淵」管理人日記]
 少し見に行ってから時間が経ってしまったのですが、29日に見に行った能楽劇『夜叉ヶ池』の感想です。朝から夕方までは大西信久二十三回忌追善会に行っていたので、一日能楽漬け(笑) 急いで向かった梅田芸術劇場前は開場が遅れたらしく、大混雑でびっくりしました。 しかし、『夜叉ヶ池』で小鼓を打たれる大倉源次郎師って、直前まで大阪能楽会館で『融-十三段之舞』を打ってらしたのですよね。『姨捨』でも小鼓後見をつとめられてましたし…本当にハードスケジュールです![:びっくり:]... [続きを読む]

受信: 2005-11-02 19:15

» 夜叉ヶ池@オーチャードホール [独呟箏~ヒトリゴト~]
まず、最初に掲げておきたいのは、 「出ている役者の方々はとても素晴らしかった」 …ということです。 萬斎さんが、「山月記」の舞台のときのようにストーリーテラー&主人公(?)の晃役を演じている場面や、 悲劇的なクライマックスへの、あの狂気がかったオーラ...... [続きを読む]

受信: 2005-11-04 14:57

« 東宝エリザベート2005(2) | トップページ | CD「CATS」劇団四季オリジナル・キャスト版 »