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2006-03-12

「三月大歌舞伎」昼の部/2006年

3 婆さん力がすごかった!

...などと今風な書き出しにしてみましたが
三月大歌舞伎は先代・十三世片岡仁左衛門の十三回忌追善公演。 ゆかりの役者勢ぞろいで演じます。

婆さんとは今回の演目「菅原伝授手習鑑/道明寺」に出てくる覚寿という役。
歌舞伎にも詳しくない私が幕が上がった瞬間からこのキャラクターにぐぐっと目が惹き付けられました。

にも」とあえて書いたのは、鑑賞経験が浅い私のような観客でもすぐに注目してしまう役柄だからです。 この覚寿という役は歌舞伎では*三婆と呼ばれる三大老女役のひとつ、というのを知ったのは耳に流れる*イヤフォンガイドの解説から。
*参考:歌舞伎のおはなし:三婆
*イヤホンガイドHP

覚寿さん、男前のお婆さんです。

年を重ねると女も中性化がすすむので、ほとんど”男”になってしまう可能性ばかりが大きくなった女性という生きもの。
”男前のお婆さん”は男っぽい老年の女性ではありません。
枯れて男っぽくなったのでも、いつまでももてあましたベトベト、だらりの空気をまとわりつかせたような女でもないのです。 
人生経験からの智恵と機知にとみ、為す事は的をはずさずに実行する。 
かつての女性のふくよかさの片鱗の中に凛とした気品を秘めたキレイなお婆さんです。
現実レベルでもこういうお婆さん、最近あまりお目にかからない。
『らしさ』を演じる歌舞伎にそのアーキタイプが残っている、というのも皮肉なものです。

物語は菅原道真が大宰府に流される前のエピソード。
道真は敵方の陰謀によって養女・苅屋姫と親王の恋愛を朝廷乗っ取りとの疑惑をかけられます。 その無実を晴らす為に娘とは縁を切り、配流を承諾しての旅立ち前。 伯母の家に逗留します。
その伯母が覚寿。
この家には苅屋姫もいるのですが、縁を切って無実を証明するとした道真(この作品での名称:
菅丞相)はひと目会うことも禁じており、同じ屋根の下ながらも顔を見ることさえ出来ない切ない状況にあります。
ひと目だけでもと思い募る苅屋姫と立田の前に覚寿が現れ、戒め、杖で二人を折檻します。

ここでド素人観客の私の強い助っ人のイヤフォンガイドの登場です♪
解説ぬきで見ていたら、なんだか心情が理解できないままにいってしまったところ。
それが名調子の解説でこの折檻する一見怖い老女の辛い内面が語られます...折檻する側もやはり心でそれ以上の痛みを受けているというような感じの内容です。 情に流されることなく、そして心も失わずしながらも辛い役割を家族の中で務める。
覚寿のこの登場から筋書きだけでは何やら物語の内容がつかみきれないままだった私も集中して観ていく事に。 
そこに道真がらみでまたさらなる陰謀がおき、覚寿は仇を討ち取るのですが、これがまたすごい。
一太刀では死なせない、もっと苦しんで死んでもらう、と留目を指さず庭の隅に打ち捨てておくのです。

覚寿の話が先行してしまいましたが実はこの作品の見所は主人公の菅丞相を演じる当世・片岡仁左衛門です。
先代の当たり役を演じて今回3回目だそうです。
演じる役は神としても祭られている道真。
演じる側も昼のこの演目1本にしぼり、精進して挑んでいるのだそうです。

とにかく非常に 気高く 神々しい のひとことに尽きました。

作品から一幕だけの上演ですが内容が長いこともあって、周囲がワサワサ。
しかし、この菅丞相にまつわるすべてが終わるまで決して目が離せません。
表情ひとつ変えない菅丞相の頬には幾筋もの滝のような別れの涙の跡が...
そのまま微動だもせず花道を歩いて消えていきます。
(これはちっと遠目なら双眼鏡なしでは見えないので、双眼鏡携帯不可欠。今回私自身は肉眼で見れる位置だったのでラッキーでした。)
役者って...とこういう時はあまりにも当たり前の言葉しか思い浮かばなかった私です。
そしてやはり独特の美しさを持っている人ですね。
とくに色を超越した美しさが見れる演目だろうと思います。
(昔、玉三郎との孝玉コンビの共演がブームになっていたのもわかるような気がします)

道明寺の話にはこの菅原一族のルーツや道真の霊力に繋がるような逸話が入り、非常によくできているお話しで、粗筋だけでは内容がピンとこなかった私もその魅力の一旦を感じることができました。
詳しい内容は下記のようなすぐれたサイトがありますので、興味のある方はご参考ください。

【参考】
文化デジタルライブラリー「菅原伝授手習鑑」

この作品の人物相関図はこちら
道明寺あらすじはこちらから

32階では先代の現役時代の写真ギャラリーも。
手前の紫色の衣の写真が菅丞相役。
神業ともいわれたそうです。

で、今月の歌舞伎座ですが、本当はとりあえず(失礼m(_ _)m)幸四郎を見ようと出かけたのですが、この最後の作品で前の二つの演目がすべて記憶から吹っ飛んでしまいました。
 
(でもひきつづき別項でちょっとだけ書きます)

3/7/2006@歌舞伎座

◆3/18/2006追記:
『片岡仁左衛門が道真公役--父の十三代目追善狂言として』毎日新聞3月1日

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【吉例寿曽我(きちれいことぶきそが) 】11:00-11:30

鶴ヶ岡石段の場/大磯曲輪外の場

工藤祐経 ・我當 /近江小藤太・ 進之介/ 八幡三郎 ・愛之助 /奴色内 ・亀三郎/ 奴早平・亀寿 /梶原源太・ 松也 /喜瀬川亀鶴 ・吉弥 /秦野四郎 ・亀鶴 /朝比奈三郎 ・男女蔵/ 化粧坂少将 ・家橘 /曽我十郎 ・信二郎 /曽我五郎 ・翫雀 /大磯の虎 ・芝雀

幕間 20分

【義経千本桜・吉野山(よしのやま)】 11:50-12:40

佐藤忠信 実は源九郎狐・幸四郎/静御前・福助/逸見藤太・東蔵


幕間 35分

十三世片岡仁左衛門十三回忌追善狂言  一幕 13:15-15:13

【菅原伝授手習鑑・道明寺(どうみょうじ)】

菅丞相・仁左衛門 /判官代輝国・富十郎/ 宿禰太郎・段四郎/苅屋姫・孝太郎/贋迎い弥藤次・市蔵/土師兵衛・芦燕/奴宅内・歌六/立田の前・秀太郎/覚寿・芝翫/

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