『メタルマクベス』
「キレイはキタナイ、キタナイはキレイ」...
『マクベス』 by シェークスピア。
「きれいは汚い...ただしオレ以外」... ん?
『オズ』の魔法にご用心。
悲劇は喜劇? 喜劇は悲劇??
女性の皆様ご用心。
あの魔女でさえもかつてはたぶん女だった。
「万歳~~♪ マクベス!~~♪」...耳の奥に残るセンリツ。
やはり『マクベス』の毒は強い。
『メタルマクベス』、大音響と光の洪水の劇画タッチのメロドラマ。
それにさえも『マクベス』の呪縛を感じる。
恐ろしく才能のある演出家と脚本家が巧みに操る近未来のマクベスはまさに預言的。
預言が本当になる頃には、みんなすべての理由を忘れているだろう。
松たか子がとても輝いていた。
彼女が最初に登場すると周囲がぱっと明るくなる。
あのMIKI MOUSEのトレーナーを着ていてさえも彼女はチャーミング。
普段は物足りなく感じる要素となる彼女の非常に現代的な雰囲気が、今回はほどよいバランスとして重くなりがちな内容に軽やかさを加える。
対の内野聖陽は私が『エリザベート』→『ベガーズ』という流れで見てきたせいか、この作品では前2作間で感じたような変化への新鮮な驚きというものは薄かった。
なさけないロッカー役も勇敢な戦士(時に妻にベロンベロ~ンに甘える駄目男くん)であってもその影にマクヒースがちらついてしまった。
新感線の舞台を見るのは初めてだが、この個性的なメンバーの並ぶ集団の中にあってはさすがにその存在感が若干薄まる感じだ。
あのヘアスタイル似合うけれど、衣装がいつも重ね着的デザインで、なんだかモコモコしたむく犬を想像してしまった。 おいで、おいで、キャラメルあげるから...て、私の中ではむく犬ランディとして記憶されてしまったかも^^; (あの集団の中にいてはさすがのうっちーも可愛い感じでもある、ということで。)
心が顔に出て時折変な顔になってしまう男、ランダムスター。
「ランディ、顔!」と注意されるシーンがいくつかあるけれど、私の場合は「うっちー、お腹!」でしょうか(爆)。 時代劇は衣装的に腹が厚いほうがいいと思うけれど、メタルファッションではギリギリかも。
気をつけようぉ、ランディ。
青山劇場は二回目だが、今回二階最後列にて観劇。
意外や意外、一階の半端に前方寄りの席に座るよりも見通しが利いてなかなかに良好な位置だった。 どこに座っても双眼鏡使用は必須事項なので詳細を見るのも問題なし。 あのLEDの大画面から送り出される光と大音響にはさすがに開演10分で脳がくたびれるのを感じたので、適度に距離もとれて私にとっては大当たり席。
物語の他の詳細は他のブログで沢山拾えると思うので、以下単純な感想のみ。
新感線の舞台は初めてだが、『マクベス』というわかりやすい主題で見ることができ、二重構造のタイムラグも上手に使って一瞬たりとも飽きさせない。
曲はベタなお笑いを誘うような内容にもかかわらず、一回聞いたら耳に残ってしまうという優秀さ。 観客の肩に力を入れさせることなく4時間近くを見せてしまう才能には非常に関心させられた。
出演者全員が個々に取り出す必要がないほどに、この作品に溶け込んでいるという自然体に見えるバランスもすごい。 当たり前のように存在するという一番難しい部分を巧みに演出し、演じる新感線役者たち。
そこに加わる今回のキャスト。
上条恒彦演じるレスポール王の戦況を伝える伝令への理不尽なリクエストが面白い。
そして登場する王様付きの歌手・冠くん。
なかなかおちゃめな愛すべきキャラクター。
すでにブリッジの粋に到達したばく転にも拍手♪
この舞台、役者同士のテンポがすごくいい。
そして誰だかわからないくらいに化けて演じる森山未來。
あのちょっと軟弱そうな雰囲気の青年がこの舞台の濃厚さに負けないくらいの芸と存在感を披露。
ランディの無二の親友であり戦友でもあるエクスプローラーこと橋本じゅん。
彼はシェークスピアがすごく似合いそう...なのに亡霊になってからも笑わせてくれます。
最後の鍵を握るグレコ=マクダフ北村とシマコ=マクダフ夫人。
このあたりの味付けはいかにも関西系。
城に残されたマクダフ夫人と子供たちが皆殺しにされるシーンは『マクベス』の中でも非常に残忍なシーンのひとつだ。
翻訳本を見るとほぼ原作通りの展開と思うが、予告なく突然不安定な戦況の中、置き去りにされたマクダフへの妻として受けた裏切りの嘆きをあの一見明るそうな未亡人の歌に託すクドカンの才能はなかなかのもの。 (彼が製作発表で「マクベスを読んだことがない」と言ったのは単なるノリで、本当は読んだことがあるそうです。)
深いシーンとして印象的なのは、レスポール王が領主格上げになったマクベスに問いかける場面。
王という地位は力のみでは成り立たたず、という暗黙の示唆が現代的なセンスによって巧みに織り込まれている。
またクドカンの世間を捉える目の鋭さはランダムスター夫婦の姿にもよく現れている。
ランダムスター夫人の煮詰まり感もごく普通におきること。
家は女のもの。 男の城は戦場だ。
ランディの子供っぽさをそのまま受け入れるランダムスター夫人はそのままママン。
このママンは餌は与えるが子供を育てない。
壊れた夫人はやがてランダムスターと同じように幼い駄々っ子のようになっていく。
ママンを無くしたおこちゃま(年齢は大人)は悲しいよね。
うん、これはかなりイケてる構成だ。
今の日本はこういう家庭で一杯だわよ。
なかなかに気に入っているシーンのひとつは、あの酔っ払ったバンクォー橋本と王殺害後のランダムスターの絡みとその後。 そうですゲ○にやたらこだわるあのシーン。
ベタな笑いの中の変な緊張間がたまりません(そういうシーンは他にも多いのだけれど)。双眼鏡覗いていて、マーライオン橋本を見逃したのが残念。
・・・
詳細を追うときりがない。
本当のところはたった3行にも満たないかも。
これほどシェークスピアの姿がくっきり浮き彫りになって見えた作品も珍しい。
シェークスピアの”作品”は沢山あるが、シェークスピアの姿が見えたのは(今のところ)これだけ。
そして現代的味付けであってもこの複雑な心理劇をここまで練り上げて見せてくれたこの舞台人たちの才能には大拍手DEATH♪
あ、最後に...
あのランダムスター家の伝令は「吉田」です!
みんなブログでやっぱり吉野家って呼んでいるので(あえて)舞台風に言ってみました(^m^)
5/31/2006 @青山劇場 マチネ
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【演出】いのうえひでのり 【脚色】宮藤官九郎
【出演】ランダムスター(マクベス内野):内野聖陽/ランダムスター夫人(ローズ・林B):松たか子/レスポールJr.(元きよし):森山未來/グレコ(マクダフ北村):北村有起或/エクスプローラー(バンクォー橋本):橋本じゅん/グレコ夫人(シマコ):高田聖子/パール王(ナンプラー):栗根まこと/レスポール王(元社長):上条恒彦/他
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【関連記事】
◆[評]メタル マクベス(劇団☆新感線、ヴィレッヂ)
「新時代の商業演劇」の到達点
新橋演舞場、帝国劇場、青山劇場……。都内の大劇場で次々と公演を行う近年の劇団☆新感線を見ていると、「新時代の商業演劇」が一つの完成型に近づいたという印象を強くする。シェークスピア悲劇を題材にした今回の音楽劇もそう。おなじみのハードロックと古典劇を巧みに融合し、笑いも織り交ぜた新感線らしい世界を繰り広げる。................................
悪漢に徹しきれない主人公を「情けない普通の男」と強調する余り、悲劇の色合いは薄れたが、誰にも起こりうる挫折の物語として見る者の同情を誘う。長髪を振り乱して歌う内野のロック歌手ぶりが堂に入り、松も「贋作・罪と罰」に続き悪女が似合う。
だが、話の筋が割れているだけに4時間近い芝居の後半はさすがにだれる。また、完成型とは行き着く所まで行ったということでもある。前作「吉原御免状」のように歴史小説に題材を取っても、シェークスピアを扱っても、新感線の世界は確固として揺るがない。その安定感が商業演劇の良さではあるのだが。
........(2006/5/24・読売新聞)
◆新感線 メタルマクベス(ディップス・プラネット/ステージ)
あらすじ:時は2206年。
繰り返される戦争によって世界はリセットされ、瓦礫の荒野と化していた。
そこには、未来を占う魔女が3人・・・
日々戦いは繰り返され、絶大な勢力を誇るレスポール王率いるESP軍が 将軍ランダムスター(マクベス)指揮の下、他の軍を次々と征していた。
そこへ3人の魔女が現れ、ランダムスターに「ランダムスターこそが未来の国王である」との予言を告げ、1枚のCDを渡す。
それは、1980年代に活躍したヘビーメタルバンド「メタル マクベス」の伝説のCD。
歌詞に込められた意味が殺人予告となっており、「メタル マクベス」バンドの人間模様がランダムスターの国王となる道に繋がる予言となっていた。
やがて夫が国王となる予言を知ったランダムスター夫人は、 予言を現実のものとするべく夫をそそのかし、
レスポール王の息子レスポールJr.を犯人に仕立て、王を殺すという計画殺人を企てる。
...............
シェイクスピア四大悲劇の一つ「マクベス」を未来に置き換えて、
ロックな悲劇「メタル マクベス」が現代に誕生する。
◆シェイクスピア×クドカン×いのうえ 『メタル マクベス』舞台稽古 (2006/5/21・シアターフォーラム)
◆劇団☆新感線、クドカン脚色のマクベスを公開(2006/05/15・スマートウーマン)
◆舞台「メタルマクベス」松たか子に聞く (2006/5/11・産経新聞)
◆大音量 ヘビーな悲劇だぜ・劇団☆新感線「メタルマクベス」(2006/4/26 ・読売新聞)
【過去ログ】「メタルマクベス関連記事2件」
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コメント
5/16東京初日に観た感想をTBさせていただきましたm(_ _)m
私はクドカンのマクベス夫人の造詣に違和感があって深く入り込めませんでした。「マクベス」は能楽堂シェイクスピアシリーズが今のところ一番よかったです。
早くも私の心は来年の染五郎がリチャード三世にあたる役をやるという『朧の森に棲む鬼』に飛んでいってしまいました(^^ゞ
投稿: ぴかちゅう | 2006-06-14 02:20
ぴかちゅうさん>いつもありがとうございます。
好みも出ますので、いろいろですね♪
リュートピアはよく出来てましたが逆に出来すぎちゃってる感が強かったので、今回のこの現代をしっかり見ていながらクールな部分もある作品作りはなかなかに面白かったです。
もう来年がそこまで来ちゃってますね^^;
来年はまったく白紙です。どうしようかな♪
投稿: ♪~ | 2006-06-14 14:36
2本目のTBです。初日に観た時に電光掲示板がうまく使われているな~と感心したのに、先日の感想には全く触れていなかった。そこでこれまでの観劇経験をふりかえってつらつらと書いてみたのです。やはり21世紀なんだなと(^^ゞ
投稿: ぴかちゅう | 2006-06-14 23:52
再度の足跡ありがとうございます>ぴかちゅうさん
先日偶然見たTVのスマスマでもかなり大掛かりなLEDのセットをバックに使っていました。
これからどんどん流行そうですね。
翻訳物でも文字が流れますが、これって意外と別のところでも役に立つのではないかと...耳にハンディのある人達の観劇等にも便利かと。
ぴかちゅうさんのブログを拝見してそんなことも思い浮かべました。
投稿: ♪~ | 2006-06-16 12:39
カキコミは、お久し振りです。
(^^;
やっと、話題の作品を目撃してきました。
以前から、映像使いはしていた劇団だけに、開幕前の
携帯電話の電源offなども上手いこと作ってましたね。
「マクベス」からアイデアを得ての脚色。
面白い試みだったと思います。
松さんの熱演には、思わず泣かされてしまいました。
そして、上條さんの上手さをシミジミ堪能しました。
あ、久々に観れた森山君のダンスも、ワクワクでした♪
(*^^*)
感想をアップしたので、トラバさせていただきました。
投稿: midori | 2006-06-16 13:16
midoriさん>
TB&足跡ありがとうございます。
上條さんの認知度はもっとあってもいいはずですよねぇ。
相変わらずいいお声を保っていますし、自然体でいながらにしてぴしっとその場を締めている感じです。
昨年の今頃は松さんも上條さんも『ラ・マンチャ...』で渋い存在でしたが、今年はギンギンに光っておられますね。
今風の面白いお芝居でした>メタマク♪
投稿: ♪~ | 2006-06-17 22:07