『ベガーズ・オペラ』 再演２００８

大阪での公演を終えて日生に戻ってきた『ベガーズ･オペラ』の再演を初めてＢ席にて観劇。
張り出した舞台は最上階から見ても本当に近い。
そして初演と変わらずいい空間が劇場全体に広がっていた。
初演が２年前だなんて信じられないほど記憶に馴染んでいたこの作品。
ちょっと腰が重かったのだが、やっぱり観てよかった。　そして時間があれば続けて観ちゃうくらいの吸引力のあるお芝居。　

試行錯誤の初演と違って、今回はベガー達が物語の中で演じる芝居にかなり重心が移ったようだ。　流れは変わっていないが、浮気男のマクヒースとその女たちの恋愛劇がより濃厚に演じられていて、わかりやすい雰囲気になっていた（とにかく恋愛劇を追っかけていれば他の設定はついてくる、という感じ）。
前回この話って何？？？と長い公演時間にギブアップする観客も多かったようだが、再演では最初から劇場内の一体感がすごい。初めてみる人も楽しそうにして見ているのが手に取るように伝わってきた。　
先に大阪で蓋を開けたこともあってか出演者の演技も歌も充実度大。
ポリーの笹本玲奈の演技の成長ぶりには目を見張るものがある。　前回はかなり背伸びしてがんばっていた感があったが、今回は恋する女がすっかり板についていて可憐な花を咲かせていた。　だんだんと舞台女優さんという雰囲気が出てきて、あと数年後の姿がなんとなく想像できるような女っぷり。
お久しぶりのうっちーマクヒースは長丁場をこなしているせいか、公開舞台稽古の写真からは想像もつかないくらいにすっきりスリムになっていた。　もしかして初演よりもスリムかも？
二股も三股もかけている軽薄男によりいっそう拍車がかかって、監獄で二人の妻に囲まれる絶体絶命のシーンでは本当に薄くてペラペラで騙す以外にな～んにもない自分勝手な男を好演。
相変わらず芸達者な島田歌穂の「...感謝はして」の後の歌声でどうしようもない恋心の深さに客席もずっしりとはまっていく。
ピーチャム役の高嶋兄。　初演では変に浮かんだ感じがあったが、今回はどっしりした演技で別人に。　ポリーの父親でもある設定によりそぐった落ち着きも垣間見え。　
これは今回の演出のせいだろうと思うのだが、初演のハジケ飛んでいたテンションの二重、三重の演技がかなり凝縮されて芝居の中の芝居に投入されているからだろう。　同様な感じがポリーにもピーチャム夫人にも、フィルチことトムにも観てとれた。 同じ台詞同じ設定なのにこれほど変わるのかという感じ。　恋愛劇に焦点が合っていたと同じくらいの比重で最後のシーンでのトムの公演への意図が社会風刺としてがっしり伝わってきた（前回はどれも散漫さがかなりあった）。　
怪演のダイアントレイプスは衣装もメークもすっかり変わり、ピーチャム、ロキットと三人での密告シーンはちょっとすっきりまとまったか。あの帽子を取った後のボロボロの頭のメークは視覚的にもかなりきます^_^;　初演と１８０度変わったイメージはこのキャラクターだけ。
他にも登場人物の配置が変わったシーンはいくつかあったようだ。
売春宿でのマクヒースと女たちとの絡みは２階の遠目で見る限りでは前回のねっとり感がちょっと軽くなった印象。売春婦同士の絡みが客席に下りての観客とのやり取りに広がったせい？　
マクヒースは初演と変わらず女が好きだ～～と客席いじり。　今回は美女の人は手を上げてとか言っておいて、美人は思い込みが激しいという落ちもアリ。
とにかく最後の最後までよく行き届いた芝居で、今回は観ていて幸福感がじんわり湧いてきた。
再演で前回見えなかった芝居の面白さが前面に出てきたように思うが、残念なことがひとつ。
あの初演の持っていた”毎日が初日で千秋楽”の英国のベガーの持っていた休憩時間の緊張やユーモアーが手馴れた雰囲気の客いじりになってきたこと。　ベガーである芝居の部分も洗練されてきちゃたのでしょうね。　それに全体の体力配分も考慮してか、ベガーとしての遊びの部分が小さくなったような気もする。
なお、休憩時間の演出は出演者がおやつ攻めに合わない形に変更されてましたので舞台前に列はできませんでした。
初演を見た人も見ない人も一見の価値ありのベガーたちの大芝居です

パンフは２０００円。ちょっと高い感ありだけれど、すごく動きがあっていい感じの舞台写真満載でした。　

2008/3/14 @日生劇場マチネ

*パンフより...J.ケアード演出の『夏の夜の夢』来春再演決定だそうです。
昨年の『夏の夜の夢』の感想はこちら。


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

http://beg.toho-stage.com/